まいちゃんは お父さんと手をつなぐと、さっきいたへやに もどります。
テーブルの上には いとこのおねえさんがつくってくれた ドーナッツがありました。
小さくて まあるいドーナッツは さとうがいっぱい しみこんでいました。
まるで まいちゃんに「たべてください」と さそっているようです。
おなかがすいていたまいちゃんは、フォークでそれをつきさすと 口の中へ入れました。
あまいおかしに、ほっぺたが おちそうです。
まいちゃんが、ふたつめのドーナッツを ほおぼっていると、お父さんが 大きなはこを ひっぱってきました。
はこのまわりには うっすら ほこりがかぶっています。
「それはなあに?」
「クリスマスツリーだよ。ずっとしまったままになっていたから。お父さんは これを出しにきたんだ。まいちゃんは いえのツリーを見るのは はじめて?」
「うん」
「じゃあ いっしょに ツリーのかざりつけ しようか」
「うん」
まいちゃんは ドーナッツをたべるおわると、お父さんのもとへ かけよりました。
お父さんは はこの中から いろいろなものを とり出しています
ふとい 木のみきと ほそながい えだ。
サンタさんや プレゼントや おかしのかたちをした おにんぎょう。
いろんな大きさのほしと たくさんのボールたち。
きらきらしたそれは まいちゃんの目をひくものばかりです。
しばらくのあいだ、まいちゃんは 小さなサンタさんをうごかしたり、ボールをころがしていました。
おとうさんは ツリーをくみたてながら まいちゃんに いろいろなことを きいてきます。
「まいちゃん。ようちえんはたのしい? おともだちと なかよくあそんでいる?」
「うん。あしたはね おともだちの しぃちゃんのおうちで あそぶの」
「そうかあ。じゃあ、お母さんのいうことは? ちゃんときいている?」
「きいているけど――お母さんは うるさい」
まいちゃんのこたえに お父さんは くすくすとわらいました。
「だって。ほかの人のまえで おぎょうぎよくしなきゃいけないし、すききらいはするなって言うし。
ごはんのあとは はをみがきなさい、おふろに入ったら テレビ見ないで はやくねなさい、って いつもうるさいんだよ。
しぃちゃんのお母さんは とってもやさしいのに……」
「じゃあ まいちゃんは お母さんのこと、きらいなの?」
「ううん」
まいちゃんは、くびを よこにふりました。
お母さんは ちょっとうるさいけど、お休みの日は まいちゃんとあそんでくれます。
どんなにいそがしくても、ねるまえに えほんをよんでくれます。
まいちゃんのことをおこっても、さいごは ぎゅっとしてくれます。
まいちゃんは そんなお母さんがだいすきでした。
「お父さんは? お母さんのこと すき?」
「だいすきだよ。がんばって しごとしているところとか、かぼちゃのにものを おいしくつくってくれるから だいすき」
「よかった」
「お母さんはまじめだから がんばりすぎちゃうんだよね。たまには だらーんって、かたのちからを ぬけばいいのにね」
「だらーん?」
「そう。だらーん」
そういってお父さんは 目を白くして 口をたてにひらきます。
あまりにもまぬけなかおだったので、まいちゃんは わらってしまいました。
「へんなかおー」
とてもおもしろかったので、こんどはまいちゃんが お父さんにむかって おなじかおをしてみました。
「ほおら。ふざけていると いとこのおねえさんが かえってきちゃう。おへやがちらかってたら おこられちゃうよ」
「はあい」
きがつくと、ツリーは まいちゃんとおなじ大きさになってました。
そこへ お父さんが でんきゅうのリボンを まいていきます。
次に まいちゃんがあそんでいた、きれいなかざりを えだにつけていきました。
ひくいほうのえだは まいちゃんが たかいほうのえだは お父さんがつけました。
そこへ わたでできた ゆきをちりばめます。
「さあ、さいごのしあげだよ」
そういって お父さんは まいちゃんをだっこしました。
まいちゃんが木のてっぺんに いちばんおおきなほしをのせると ツリーは きらきらとかがやきはじめます。
「できたー」
お父さんのだっこから ぴょんと とびおりたまいちゃん。
すると ツリーの下に 小さなはこがひとつ のこっていたことに気づきました。
ふしぎなことに、えだにぶら下げる ひもがありません。
「お父さん、かざりがひとつ のこっているよ」
「ああ。これは『とくべつ』な かざりなんだ。お母さんがかえってきたら つけてあげてね」
お父さんが ドーナッツがのっていたおさらの上に はこをおくと、木のテーブルは みどりいろのぬのに つつまれました。
テーブルの上には こんがりとやかれた おにくが あらわれます。
そのとなりには あたたかいスープとサラダが、ふかふかのパンもあります。
お父さんのまほうに まいちゃんは 目をかがやかせました。
「さあ これでパーティのじゅんびができた。あとは おきゃくさんがくるのを まつだけだ」
まいちゃんは お父さんとかおを見あわせ、にっこりとわらいました。
|