NOVELTOP

目の前の魔法使いが詐欺師にしか見えないのですが如何いたしましょう?

5 詐欺魔法使いの弟子はドラゴンがお好き?(10)

 そう。いくらシールドが張れたとしても、それを破壊するドラゴンを抑えなきゃ意味がない。確か数人がかりで服従の魔法をかけると聞いていたけど――
 私がその詳しい方法を問いただすとヤツはこう答えた。
「知っているとおり、ブラックドラゴンの翼は魔法を中和する力を持っている。ドラゴンが翼を広げている間は何をしても無駄じゃ。だからドラゴンが地上に降りた瞬間に翼を根元から斬りおとす。それから服従の魔法をかけ、ヤツを誘導するのじゃ」
 ヤツの説明に何だか痛そうというかドラゴン可哀想かもと思ったのだけど、ヤツ曰くドラゴンというものは体の一部分を破損しても時間がたてば再生するのだとか。
 それを聞いて私はちょっとだけほっとした。その話が本当ならさっき翼を破損したホワイトドラゴンも時間がたてば元通りになるはず。あのドラゴンは子連れで、あまりにも気の毒だったから。消えてしまってからも少し心配していたのだ。
 私達はこの世界を守るために動き出す。
 スピンさんは世界地図と各国の地形を詳しく調べ上げた本を開き、この世界にあると言われているパワースポットを探し始めた。ヤツは力のある魔法使いを集めるべく奔走する。そして逃げたドラゴンを抑える役目は私とプミラさんが引き受けることになった。
 護身用に一振りの剣が渡され、絶対に傷つけないという条件で、スピンさんからダックとクロムを借りる。彼らの背中に乗れば長距離の移動もだいぶ楽になるだろう。
 私はクロムの背中に乗ると城の窓から外へと飛び出した。ダックに乗ったプミラさんが私のあとにつづく。
 目指すはブラックドラゴンが好む温暖な地域だ。私達はドラゴンが飛んで行った方向の果てを目指して飛行する。
 やがて、城から数十キロほど離れた郊外で空を旋回するホワイトドラゴンを見つけた。
 ドラゴンは気が立っているのか、私達を見た瞬間、牙をむき出しにして威嚇した。悲鳴にも似た雄たけびが耳をつんざく。かなり興奮状態な為、おいそれと近づくことすらできない。
 それにプミラさんは傷のせいで動くのも辛そうだ。ここでの闘いは避けられないけど、できることならその負担を少しでも軽くしないと。
 しばらくの間私達とブラックドラゴンのにらみ合いが続いた。時間の経過とともに負の感情が私に忍び寄る。
 目の前の絶望を放っておけなくて、つい勢いで出てきちゃったけど――やっぱり私には荷が重すぎる。というか、無茶だったのかもしれない。
 だってそうじゃない。ヤツからはちゃんとした教えもなかったし、力だってままごと程度でももちゃん以下だし――って、あれ?
 その瞬間、私はあああっ、と大きな声を上げていた。私の悲鳴にプミラさんは勿論ドラゴン達も体を揺らす。
 私ってば! なんて大事なことを忘れていたんだろう。
「プミラさん、一旦城に戻ろう」
「え?」
「もっと簡単な方法を思い出したの」
 一先ず、戦略的撤退だ。
 私は急旋回し城へ戻ろうとする。すると戦線を離脱したことに腹を立てたのか、ドラゴンが超特急で私達を追いかけてきたではないか。
 ええい、こうなったらついて来い。その方が手間が省ける!
 ダックとクロムが必死に飛んでくれたおかげで、城に着くまでそう時間はかからなかった。
 建物の周りをぐるりと一周すると中庭にももちゃんとクレアさんの姿を見つける。私は二人の名を呼ぶと、彼女たちに近づいた。
「あらあらどうしたの? 何か忘れ物?」
 相変わらずゆったりした口調のクレアさんに私はいえ、と返事をすると花壇で花つみをしていたももちゃんに声をかける。
「ももちゃん、あなたにお願いが――」
 その時、地面が大きく揺れた。
 地震かと思ったけど――違う。私達を追いかけたブラックドラゴンが城に体当たりしたのだ。
 その鋭い爪は壁を大きく引き裂いた。近くにあった見張り塔が崩壊し瓦礫がこちらに降ってくる。
 私は慌てて防御の呪文を唱え、クレアさんとももちゃんの身を守った――が、それを邪魔するかのようにドラゴンが私めがけて火を吹いてくる。
「ひえええっ!」
 私の悲鳴が空を抜けると機転を利かせたクロムが翼を広げ旋回した。すんでのところで炎を回避した私はクレアさんとももちゃんを探す。空中から目をこらすと、彼女たちが崩れた塔の陰でかたずを飲んでいるのが確認できた。よかった――私はひとまず安堵する。
 ドラゴンは自分の攻撃が失敗したと知ると更に奇声をあげ、今度はプミラさんに向かってきた。
 鋭い爪が姿をとらえようと振りかぶる。プミラさんは絶妙な所でドラゴンの連続攻撃をかわすけど、その動きはだんだん鈍くなってきた。彼女の服に血がにじんでいる。ドラゴンは血の臭いに更なる興奮を覚えたらしい。目が爛々としている。
 プミラさんが腰につけていた剣を抜いた。ダックをドラゴンの死角につけ跳躍する。大きな背にまたがり、その翼に剣を突きたてようとした――まさにその瞬間だった。
 ドラゴンが自分の腹を天上に翻しプミラさんを振り落とす。すぐさまダックが救出に向かった。血の気を失い気絶した彼女を拾ってスピンさんのいる書庫へと向かっていく。
 残された戦力は私だけ。
 私はきゅっと唇を結び、浮遊するドラゴンに突進する。するとドラゴンはくるりと向きを変え、その尻尾でクロムごと私を吹き飛ばした。
 クロムはすんでの所で一回転して助かったけど、私は慣性の法則に従って城壁に叩きつけられる。背中に強い衝撃を受け、そのまま地上に落下した。瓦礫が私を覆うと持っていた杖が手から離れ、ももちゃんのすぐそばまで転がった。
 うわ、なんて素敵なシュチュエーション。ももちゃんにしてみればファンタジーの主人公さながらのドキドキ展開ではないか。
 瓦礫に体を捕らわれた私は半ばやけっぱちでその名を叫んだ。
「ももちゃん! その杖を拾って。あなたの力で私を――お姉ちゃんを助けて!」
「え、でも……」
「あなたならできる。だってあなたは『魔法使いもも』なんだから!」

NOVELTOP