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目の前の魔法使いが詐欺師にしか見えないのですが如何いたしましょう?

2 詐欺魔法使いと真夜中のカレー

 仕事から解放されて夕飯食べてお風呂入って、さあこれから寝ようって時になって「ヤツ」が現れた。
「そちの世界にあるカレぇというものを作ってくれ」
「嫌です」
 すると腕につけてあるブレスレットが光を放った。
 私は慌てて呪文を唱える。バリアーを張って衝撃を抑えたけど、それでもビリビリして痛い、痛すぎる!
「ふぉっふぉ。それなりに使えるようになったではないか」
 ふさふさの髭をもてあましながらヤツは言う。老人の戯言にどこが、と私は反論した。
 まったく誰よ、こんなの発明したのは。
 私は恨めしそうにブレスレットをつまむ。契約に反すると○カチュウ並みの電流が直撃するなんて。冗談じゃない。
 本当、こんなコト関わるんじゃなかった、私は心の底から思う。魔法使いにスカウトされて浮かれていたけど、弟子とは名ばかり、ただの雑用係ではないか!
「今夜の祭りで王に献上するからのう。気張って作れ」
 このくそジジぃ。
 ぎりぎりと歯ぎしりを立てながら、私はヤツを睨む。でもここで文句を言ってもさっきの繰り返しだけだ。百万ボルトをこれ以上受ける気力もない。
 私はのろのろと台所に立った。
「野菜は一口で食べられる大きさがよいのぉ。玉葱は飴色になるまでじーっくり、な」
 ソファーに寝転びながらヤツは言う。そして何の断りもなしにテーブルに置いてあったデザートに手をつけている。
 あ、あれは一時間並んでゲットした限定スイーツうぅ。
 私はぐつぐつ煮えたぎる思いを野菜と一緒に鍋の中へブチ込む。烈火の炎でぐっちゃぐちゃになるまでかき混ぜ続けた。野菜が柔らかくなった所で一度火を止め、個形のルーを二種類、崩しながら入れる。
 全く、何が悲しゅうて真夜中にカレーを作らなきゃならないんだか。
「ほほう、これがカレぇか」
 香りに誘われたのだろう。ヤツが鍋を覗いていた。熱い鍋の中に躊躇なく指を突っ込んで味見をする。
「うむ。これなら異世界の料理で他の奴らを出し抜ける。祭りがたのしみじゃ。ふぉーっふぉっふぉ」
 さて行くかのう、そう言って魔法使いは持っていた杖を回転させる。熱々のカレー鍋が時空を超えるべく宙を舞った。そして私も――
「えええっ! 私も?」
「当然じゃろう。レシピはおまえしか知らんのだから」
 ちょっと。私パジャマにエプロン姿なんですけど。全身カレー臭なんですけど。それ以前に私の貴重な週末は?
「もぉいやああっ」
 私の雄たけびをよそに、魔法使いは時空の扉を開けた。 
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