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目の前の魔法使いが詐欺師にしか見えないのですが如何いたしましょう?

1 詐欺魔法使いと私の出会い

   ある日の昼下がり、私は会社近くの公園に向かっていた。そこの公園は緑が豊かで、私にとっての憩いの場所だ。私はいつものように木陰のベンチを探す。一つ空きがあったのでそこに座ることにする。
 ……あれ? 何かの見間違いかな? 私は何度も瞬きをする。何もなかったはずのベンチに黒皮の本が置かれている。
「魔法大全集?」
 私は本のタイトルを声に出して読む。すると、
「そなた、その本が読めるのか?」
と後ろにいた老人が聞いてきた。
 老人の質問に私は読めるも何も、と言いかけ、はっとする。書かれている文字が日本語じゃなかったからだ。英語ともアラビア語とも違う。歴史で学んだ象形文字にも似つかない。今まで見たことがなかった。
 じゃあ何故私はこれを読めた?
「ふぉふぉ、どうやらそなたには素質があるようじゃのう」
 長い顎髭をもてあましながら老人は言う。
「そなた、儂のような魔法使いにならんかえ?」
 老人の言葉に私はくるりと踵を返した。さわらぬ神に祟りなし、だいたいその三角帽子は何? 長い白髪と顎髭は何? 今日はコミケでもアニフェスの日でもない。なのに、そのいかにも的なコスプレは何。どう見ても怪しいだろ。
「宗教の勧誘はお断りします」
 私は早足で公園をあとにした。交差点に出る。丁度信号が青になったので渡ると、車が私めがけて突っ込んできた。
 ぶつかる!
 私は目を瞑る。体がふわりと浮いた。衝撃に耐えるべく体を縮めるけど――あれ? 一向に落ちる気配がない。
 私は恐る恐る目を開ける。目の前にさっきの老人がいた。
「危ない所だったのぅ」
 のんびりとした口調。ヨボヨボの体が浮いている。私は自分の足下を見てぎょっとした。ちょ、空に浮かんでるんですけど。これは夢ですか?
 老人は抱えていた本を開き何かを唱えた。小さなかまいたちが私たちを取り囲む。風は私をさっきの公園に下ろしてくれた。
「お爺さんって本当に魔法使いだったんですね」
「勿論じゃ。信じてくれたかのう」
「はい。あの、ありがとうございます。助かりました」
「そう思うなら儂の弟子になってくれんか」
「は?」
「魔法の世界も後継者不足でのう。なぁに、弟子と言っても週に二回儂の所で修行してもらうだけでいいんじゃ。習い事と一緒と思えばよい」
 老人の言葉に私は唸る。不安要素は沢山だ。けどまぁ助けて貰ったし、習い事感覚でいいなら構わないか。
「いいわ。弟子になる」
 老人は喜び、早速契約を結ぼうと言った。その笑顔に裏があると気づいたのは一週間後のこと。
 その時の私は契約の果てにとんでもないことが待ち受けていることを知らずにいた。
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