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 2 職人の国へ

 自分のカタチを探す旅に出たカチカチくん。
 彼が最初に向かったのは職人の国でした。
 自分のカタチを作るには元となる型が必要です。
 つまり、自分で好きなカタチにできる型を購入しなければならないのです。
 職人の国はそれを売っている唯一の場所でした。

 職人の国は独特の雰囲気を持ち合わせた国です。
 建物や軒先の商品、住んでいる人達も鮮やかな色遣いをした、個性的なカタチをしています。
 カチカチくんはその雰囲気に圧倒されながらも、本来の目的である型屋さんへ向かいました。
 型屋さんには型作りのキットがあります。
 キットといってもその種類は豊富で、色々なパターンの型が置かれています。
 大きなものから小さなもの、花や葉や動物をあしらったもの。
 棚の上から下まで、たくさんの商品が積まれていました。
 カチカチくんがどれにしようかさんざん迷っていると、店のドアがぎぃと開く音が。
 ぷるぷると体を揺らしてやってきたのは綺麗な花のカタチを持った女性でした。
 その手には彼女のカタチを作った花の型があります。
「型屋さん。もうこの型飽きちゃったの。新しい型いただけないかしら?」
「ゼリー夫人こんにちは。新しい型ですね。こちらなんてどうでしょう? 新作ですよ」
 そう言って店員さんが渡したのは細かい細工のされた型でした。
「これが型を抜いたときの写真です」
「あらすてき。こちらをいただこうかしら」
「ありがとうございます」
「じゃ、この型いらなくなったから捨ててちょうだい」
 ゼリー夫人と呼ばれた女性は、お金を払うと前の型を残して店を出ていきました。
 入れ違いにべつの女性が入ってきます。
 彼女もまた、かわいらしい花のカタチをしていました。
「こんにちは。使わなくなった型ありますかぁ?」
「ああ、ふくちゃん。今いつもの夫人が型を持って来たところよ」
 そう言って、店員さんはさっきゼリー夫人が持ってきた型をふくちゃんと呼ばれる女性に渡しました。
 店員さんはあきれ顔でぼやきます。
「あの人、似合う似合わない関係なしに新しい型を買うのよね。同じデザインが三日もったことがないのよねえ。まあ。私達は商売になるからいいけど」
「ゼリー体質の人はいろんなカタチに固まるからいいですよねぇ」
「けどあの人気づいてないわよ。今買っていったのが、前々回買った型のリフォーム品だなんて」
「気付かないほど上手く出来れば職人冥利につきます」
「ホント。ふくちゃんのおかげでこっちも大助かりよ」
 どうやらふくちゃんはリフォーム職人のようです。
 おそらく、ゼリー夫人がとっかえひっかえ型を買っては前の型を捨てていたのでしょう。
 型職人であるふくちゃんは見るに見かねてリフォームしたのでしょうか。
 ふくちゃんは店にカチカチくんがいたことに気がつくと、あっと声をあげます。
「今の話、聞いていた?」
「ええ」
 はにかんで笑うカチカチくん。
 ふくちゃんも笑みをこぼしました。
「ごめんなさいね。お客さんも前でこんな話をしちゃって」
「いいえ。その型、とても綺麗なのにもったいないです」
「ありがとう。でも流行りのものは廃れるからね。似合わないカタチがあってもかまわず買う人もいるし、簡単に使い捨てするし。でも、そういった人がいるから自分はこの仕事できるんだけどね」
「ひとつのカタチをちょっと変えるだけだけど、いっぱい喜ばれるこの仕事が好きよ」とふくちゃんは言います。
「あたしにはそれしか取り柄がないけれど、みんな持っているものが世界にただひとつだけのデザインに変わるのって快感よぉ」
 ふくちゃんの目はキラキラと輝いてます。
 カチカチくんはふくちゃんをとてもうらやましく思いました。
 自分にはふくちゃんのような「これが好き!」ってものがないから。
 好き嫌いに関係なく、ただ仕事をこなしていたから、毎日を過ごしていたから。
 いつか自分にもそんな思いが湧く日がくるのでしょうか?


 カチカチくんの旅はまだまだ続きます。

               
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