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「電網町一丁目商店街」
雑貨店
昭和30年代。
今と違って、スーパーマーケットといった大型店舗が少なかった。その代わりに、様々な商店が存在していた。
特に、食料品に関しては顕著に現れていた。畜産品は肉屋、水産物なら魚屋、パンならパン屋と言った感じであった。
調味料とか加工品などを全般に扱う食料品店など、一部の店を除いて、その店で専門に取り扱う以外の食材を一緒に買う事は出来なかった。
しかし、食品以外の日用品に関しては、そのような専門性がそれほど濃くなかった。
と言うか、日用品という性質上、同じメーカーから数種類の製品を取り扱っているなど、流通経路が食品よりは多彩性があったからかもしれない。
そのため、昭和30年代では、日用品を購入する際には、雑貨店か荒物店に行けば、たいていはそろえる事が出来た。
雑貨店は、現代で言う所のホームセンターやドラッグストアに近い。
もちろん個人商店であるので、取り扱っている種類には限界があるし、現在のホームセンターのように、日用品以外の物は手広く扱っていない。それでも当時の人にとっては色々な店に行かなくていいと言う利点があったのかもしれない。
まあ、食品と違って毎日購入しないといけないと言うものではないので、ある程度販売の選択肢が狭くても、使う側からすれば不便ではないのだが。
衣食住の中でも、毎日の買い物時の支出にかかる比重は低いものの、生活に必需な商品のため、どんな小さい町の商店街にも必ず一軒はあったらしい。
茨城県のとある町にある商店街。
地理上、東京からもさほど遠くはないが、まだこの時代では宅地化や都市化が進んでいない。そのためか、戦後から町並があまり変わっていない地域でもある。この商店街にも雑貨店はあった。小さい町であるが、それを裏切るかのようにこの雑貨店では売っている商品の数は結構多かった。
別にこの店の規模が大きいと言う事ではない。また現在と違って、たくさんのメーカーが乱立して、常に新製品が販売するといった時代でもないので種類的にはそう多くない。
この店の主人曰く、
「食品と違って、腐ったり悪くなったりしないのだから、少し位多く仕入れても問題はない」
との事。確かに、保管箇所とか在庫管理をしっかりしていれば、多く購入しておけば、その分仕入れ単価が安くなるので、得になるからだ。
けど、この店は肝心なところを考えていなかったのだ。
それは、日用品にも「旬」があると言う事だ。つまり、夏には蚊取り線香や防虫剤は売れるが、冬にはほとんど売れないと言う事だ。
また、掃除用具は、大掃除シーズンである年末には良く売れるが、それ以外はさほどではない。
一年中使える石鹸とかちり紙(現在で言う所のトイレットペーパー)の他、蚊取り線香とかの季節モノ商品も多く仕入れてしまったのであった。
当時は今のように、使用期限はあまり注視しない人が多かったが、それでも2シーズン目となると効果がやや下がってしまうのものだった。まあ、それでも買ってしまう庶民が多かったので、多少古くてもさほど問題はなかったのが幸いした。
現在でも地方の町の商店街や田舎の集落に行くと、個人経営の小さい雑貨店が残っている。もしかしたらその店に、何度も季節を過ごした「長老商品」もひそかに置いているのかもしれないと考えると、これもある種のドラマかなと思ってしまう。
【完】