古い約束
大学近くの公園を散策していると、懐かしい奴に会った。
「よぉ」
中学時代の悪友は昔の面影をだいぶ残していた。とはいえ筋肉質だった体はだいぶスリムになっている。背も伸びていてひょろりとしていた。
「原田じゃないか。どうした?」
「どうも何も、この間の約束を果たしにきたんだよ」
そう言って原田はにっと笑う。会うのは一年ぶりだというのに、ついこの間会ったかのような口調。
「ほら、中学の時小宮と三人でコンビニ行った時、俺が財布忘れて、おまえらに払ってもらったじゃん。今度金返すって話したじゃんか」
「そういえば――そうだったっけ?」
僕は昔の記憶を引きだすが、なかなか思い出せない。でも三人でよくつるんでいたから小銭の貸し借りはしてたかもしれない。とはいえ内容は肉まんひとつとか百円バーガーとかで、大した金額じゃなかった気がする。
僕はすっかり忘れていたことを素直に話す。原田はふてくされた。
「こういうのは貸したほうが忘れないのがデフォだろ? ちゃんと覚えてろよ」
そう言って原田は五百円玉を二枚を僕に渡した。
「ちょっとだけど利子つけといたからさ。小宮にも渡しておいてくれ」
「じゃ遠慮なく頂こう」
「沢井は昔から抜けてる所あるよなー。顔だけはいいのに――俺の次に、だけどな」
「それにしても、何で返す気に? 古い約束なんて黙ってればいいのに」
「んー、しいていうなら心の整理?
俺ら今年でハタチじゃん。人生の節目を迎えるわけだ。その前に過去の清算というか――俺なりのけじめっての? そんな感じだ」
「……そうか」
そろそろ行くよ、と原田は言う。
「小宮に会ったらよろしく伝えといて。色々すまなかった、って」
「ああ。今度会う時はおまえの好きな物でも持って行くよ」
僕の言葉に原田はにやりと笑う。手を振って別れた。明日また会おう、そんな感じで。
原田の姿が見えなくなると携帯が鳴った。小宮からだ。受話器の向こうで小宮は声を震わせていた。
「原田の親から電話あって――さっき息を引き取ったって」
小宮の報告に僕は目を伏せた。実は原田と会った時点で僕はこのことを覚悟していた。僕には見えないものが「見える」から。
原田は難病を患い、余命半年と宣告されていた。僕と小宮は何度か病院を訪れたけど、原田は決して僕らに会おうとはしなかった。今思えばそれは原田の優しさであり、意地だったのだろう。
本当なら外に出ることさえ無理だというのに。原田は最期、僕に会いに来てくれた。一番の未練を断ち切るために。
手のひらに残された五百円玉が熱を帯びていた。